みぞれの物語としての『リズと青い鳥』

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 先日、京都アニメーション劇場最新作『リズと青い鳥』を鑑賞した。テレビシリーズ『響け!ユーフォニアム』のスピンオフ的位置づけの今作は、テレビシリーズではあまり焦点の当てられることのなかったみぞれと希美の関係性を深く掘り下げている。主要スタッフは監督の山田尚子をはじめとして『聲の形』のメンバーが集結しているだけあって、「音」の表現方法はより洗練されている。『聲の形』が聴覚障害の少女を中心としたディスコミュニケーションの物語であったとしたら、今作『リズと青い鳥』はみぞれと希美のディスジョイント(disjoint)の物語であると言えるだろう。山田尚子はdisjointというテーマを通して、みぞれと希美の羨望と絶望、持つ者と持たざる者の歪な関係をどのように描き出そうとしたのだろうか。

 劇中で印象的に挿入されるdisjointの文字は、みぞれと希美の関係性を表す。2人の歪でバラバラな関係。それは単純に、みぞれは内向的で希美は外交的であることや、最終的に2人が別々の進路を決めたことに代表されるようなキャラクターの表層的な位置関係を意味するものではない。disjointとは二人の関係性への歪な接続方法の比喩である。みぞれにとって希美とは特別な存在であり、ゆえに彼女にとっての世界のすべてであると言い換えることができる。みぞれの希美に対する一方的な思いは「ずっとずっと、一緒にいられると思っていた。」というキャッチコピーでも同様に語られる。そんなみぞれは希美との関係をつなぐ回路(それはみぞれにとって世界のすべてに接続することとほとんど同義である。)として「楽器」という歪な方法しか持ちえない。『響け!ユーフォニアム2』第4話においても、みぞれが「楽器だけが、わたしとの希美をつなぐものだから」と言うセリフを確認することができる。今作では、みぞれが希美の音大進学を理由に自分も音大に進学を決めるシーンも、彼女との接続方法に楽器しか持たないみぞれゆえの選択と言えるだろう。この希美への過剰とも言えるまでの思いは、中学生のときに希美が友達を作りたくても作ることのできなかったみぞれに唯一声をかけた存在だという回想を積み重ねて、説得力のあるものとして画面に現れる。

 物語の中盤でみぞれは、劇中劇『リズと青い鳥』の解釈を通して、それまでの希美との演奏から一転、自分の本当の実力を見せるかのようにオーボエを吹く。みぞれと希美の関係性はこのシーンを境に決定的に変化する。みぞれは、もうそれまでのように希美に合わせてオーボエを吹く必要はない。このとき、彼女は希美との関係性への唯一の接続方法としての楽器を手放し、彼女との新しい関係性を模索し始める。2人は別々の進路を歩むのだろうということは、終盤以降の演出が痛いほどに示唆している。しかし、彼女たちの表面的なキャラクターとしての立ち位置とは裏腹に、2人のこれからの関係性は決して否定的なものとして描かれていない。ラストシーンで2人の言葉が重なり合ったとき、みぞれから希美に向けて「ハッピーアイスクリーム」と言うセリフは、希美のしたいことをするのでもなく、楽器を通してでもない、新しい関係性(disjointからjointへ)を私たちに予感させる。